
産経新聞 2025/5/30
<正論>読売「女系容認」論は皇統を壊す
エッセイスト 動物行動学研究家・竹内久美子
◆皇位の安定継承をめぐり
5月15日付読売新聞の「象徴天皇制 皇統の存続最優先に考えたい」と題する提言記事に驚愕(きょうがく)した。長島昭久首相補佐官はX(旧ツイッター)に「何とも面妖な紙面でした。朝日新聞かと思わず二度見してしまいました」と投稿し、私は「共産党か!?」と目を疑った。
「天皇制」なる用語(「天皇制」廃止など制度として否定的に使われる)からして既にそうだが、皇統の存続を最優先にと言いながら、主たる主張は「女性宮家の創設」「女性天皇に加え、(中略)女系天皇の可能性も視野に入れる」「旧宮家からの男系男子の養子案は、長く一般人であった旧宮家の人々に急に皇位継承権を与えることであり、人権を軽視するものだ」の3点だ。
いずれも皇統を断絶させようとするか、男系男子による皇統を安定してつなぐための重要な案を阻止しようとするもので、皇統の破壊につながりかねない。
令和3年、政府の有識者会議は以下3項目を結論として当時の岸田文雄首相に報告書を提出した。
一 内親王・女王が婚姻後も皇族の身分を保持する(ただし配偶者と子は皇族としない)
二 皇族には認められていない養子縁組を可能とし、皇統に属する男系の男子を皇族とする
三 皇統に属する男系の男子を法律により直接皇族とする(旧宮家の皇籍復帰。二が成立しなかった場合の補助案)
ここで女性皇族の配偶者と子を皇族にしないという点が重要だ。もしそれらの人々を皇族にしてしまうと子が即位する可能性があり、その場合の天皇とは「女系天皇」である。母方の血のみが皇族につながり、本人が連なるのは皇統ではなく、配偶者の家。こうして皇統の歴史は終わり、新しい王朝が始まる。鈴木王朝、佐藤王朝…と。
八木秀次・麗澤大学教授によると(産経ニュース5月16日「読売に何が起きているのか」)、女性皇族の配偶者と子は皇族にしないとする有識者会議の案を自民、公明、維新、国民民主、有志の会など8党会派は支持した。ようやく落としどころが見えてきたが、立民などが反対し決着していない。このタイミングで立民と同様の主張を提言したのは意図的だろう。
◆女系提言こそ人権侵害
読売の提言には、冒頭で挙げた3点も含め、皇統を破壊するための論理の誘導が随所に見られる。
まず「女性皇族が結婚後も皇室に残って当主となる『女性宮家』の創設を掲げ、皇族数を確保する」とした点だ。
女性宮家とは、立民代表の野田佳彦氏が首相時代に議論の俎上(そじょう)に載せたもので、氏は今でも好んで使うが、有識者会議の案からは消えた。要は女性皇族と一般人出身の夫との子を皇族とすれば、即位する可能性があり、その場合、「女系天皇」となって日本の皇統が滅ぶからだ。それなのに読売は「女性宮家」を求め、配偶者と子を皇族にすべきだと主張している。
「女性天皇に加え、女系天皇も視野に入れる」は、ずばり日本の皇統の破壊を意味する。
確かにかつて女性天皇が10代、8方おられた。父や曽祖父が天皇という男系女子だ。しかし未亡人か生涯独身を通し、次の男系男子までの中継ぎに過ぎず、皇統に影響を及ぼすことはなかった。現代の女性天皇に生涯独身を強いることは人権侵害ではないのか。結婚してお子さんも産むだろう。このお子さんが即位するとやはりまた「女系天皇」の出現となる。
◆男系だからこそ
「男系にこだわり続ければ、象徴天皇制の存続は危うくなる。女性天皇や女系天皇の可能性を排除すべきではないだろう」ともしている。
男系にこだわり続ければ、と言うが、男系にこだわり続けてきたからこそ、皇統は今日まで続いているのである。そのためのセーフティーネットとして宮家(天皇家の分家)があり、皇統の危機を救ってきた。皇統は男系以外になったときに滅び、現代の女性天皇と「女系天皇」は論外だ。
「憲法で皇位は世襲と決めている。政府も女性天皇は『憲法上可能』と解釈している」
憲法の言う世襲とは男子で継ぐことである。あまりに常識なので敢(あ)えて言っていない。そこで皇室典範第一条が「皇位は、皇統に属する男系の男子」とし、念を押しているのだ。「女性天皇は憲法上可能」は詭弁(きべん)である。
最後に旧宮家の養子案については、昭和22年10月、連合国軍総司令部(GHQ)の圧迫で、11の宮家が皇籍離脱を余儀なくされた。その際、宮内府(現宮内庁)次長が、いつ復帰してもよいよう心掛けてくださいという意味の発言をしている。「菊栄親睦会」という皇族と旧皇族との交流の場がつくられ、歴史を重ねられている。皆さん、御自覚をお持ちのはずだ。
今回の読売案は、情報や論理に疎い者たちを巧みに欺き、皇統破壊に導こうとする、某党もびっくりの国を危うくする提言なのだ。(たけうち くみこ)