
皇位継承、読売新聞への苦言
作家・竹田恒泰 (産経新聞 2025/6/6)
国会では、安定的な皇位継承に向けた与野党協議が行われ、政府の有識者会議が令和3年に示した①女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する(身分保持案)と、②旧宮家の男系男子を養子として皇族に迎える(復帰案)―の2案に論点を絞り、議論を重ねてきた。
そんななか、読売新聞は5月15日、女性宮家を創設し女性皇族の夫や子も皇族にすべきであるとの提言を発表し、さらに同社説では女性天皇や「女系」天皇も排除すべきではないと主張し、波紋が広がっている。
与野党での協議では、女性宮家は議論の対象になっておらず、まして女性・「女系」天皇は検討もしていない。読売は長年の議論が着地しようという段階で、卓袱台(ちゃぶだい)返しをしようというのか。
◆否定された「女系」天皇論
小泉純一郎内閣で皇位継承問題が議論された際に、女性宮家と女性・「女系」天皇の可否は、秋篠宮妃殿下のご懐妊で「否」とされた。その後、民主党の野田佳彦内閣が女性宮家の創設に向けて動いたところ、大きな反発を受け両論併記するだけで幕引きとなった。
その後、上皇陛下の譲位特例法の成立に際して、野党が提案した「女性宮家」創設の検討を盛り込んだ付帯決議が可決され、これを受けて菅義偉内閣で有識者会議が立ち上げられたが、その報告書には先述の2案が示されただけで、女性宮家は提言されていない。女性宮家は、検討した結果「否」となったということである。
有識者会議では、次世代の皇位継承資格者として秋篠宮家の悠仁親王殿下がいらっしゃるため、この皇位継承の流れをゆるがせにしてはならないということで一致した。若宮殿下を排除することにもなりかねない女性宮家や女性・「女系」天皇論は、皇統の維持と整合性がとれず、提言から退けられたのは当然の帰結である。
ところが、読売はこの期に及んで、女性宮家創設を提言し、さらに朝日や毎日でさえ19年の間取り下げていた女性・「女系」天皇論を主張した。
◆「女系」天皇で国家は分断
読売提言は皇室を弱体化させ、ひいては廃絶を目論(もくろ)む日本共産党の主張とほとんど同じである。日本共産党の意図は明確だが、読売は何を目指しているのか。読売提言には「皇統の安定」という大きな文字が躍るが、男系継承の皇位継承の原理を変更したら、それは皇統の破壊を意味する。
皇室の歴史において、歴代天皇の男系の血筋を受け継がない者が即位した事例は一例もない。もし男系の血筋を受け継がない「女系」天皇なるものが成立したら、それを認める者と認めない者で、国が分断されてしまうことが最大の問題である。それでは憲法が定める「国民統合の象徴」という役割を果たすことは難しい。
しかも、読売提言は、女性皇族の夫や子にも皇族の身分を付与すべきだと言うが、旧宮家男系男子の復帰については「これまで一般人として生活してきた人が皇族になることへの国民の理解が得られるかどうかなど、不安視する声も少なくない」などと、全く矛盾した論を展開している。上皇后陛下や皇后陛下もご出身は民間だが、立派に皇族としてのお役割を果たしていらっしゃる。読売はどう説明するつもりだろうか。
◆自民党も再考を
ところで、読売と自民党は共に、有識者会議の2案のうちの①の身分保持案を妥当と言うが、大きな疑問がある。自民党は女性皇族の夫と子には皇族の身分を与えない方針のようだが、皇族の子に皇位継承を担える男子と担えない男子が混在すると、将来疑問の声が呈され、読売提言のように女性皇族の子にも皇位継承権を与え、男系継承が絶ち切られる危険性がある。なぜ自民党は今そのような危険を取ろうとするのだろうか。
女性皇族が皇籍離脱なさるとご公務の担い手がいなくなるというが、民間人となってもほとんど全てのご公務は継続可能である。皇族しか担えないご公務は、摂政と、国事行為の臨時代行以外にはない。私の祖父は昭和22年に皇籍を離脱したあとも多くの公益法人等の名誉会長職を歴任し、その数も徐々に増え、晩年には30以上の役職を担った。ダイアナ妃が英王室を離れた後もエイズや地雷撲滅などの活動を続けていたのは有名である。故に①には立法事実がない。それに、女性皇族には「残留すべきだ」との圧力により、自由意思による皇籍離脱ができない事態も起き得るだろう。
②の旧宮家の男系男子を養子により復帰させ既存の宮家を存続させる案が最適解であり、目先のご公務の担い手を確保しようとするあまり、皇位を担えない男子を皇室に抱え込む①は蛇足である。
自民党が妥当とした①案は、女性皇族の夫と子は民間人であるというが、それが不自然であるというのが共産、立民、読売の主張だった。ガス抜きのつもりで①案を妥当としたことで、かえって要らぬ議論に巻き込まれているのではあるまいか。今からでも遅くはない。自民党には再考を願いたい。(たけだ つねやす)