
「軍事論文書けば報酬5万円」外国勢力の勧誘工作か
政府は警戒「教唆犯も国内法で罰す」
産経新聞 2025/6/9
自衛官や元自衛官に国防機密などを外部に漏らすように国外から外国人がそそのかしてきた場合、日本の国内法で罰せられるのか。松原仁衆院議員(東京26区、無所属)が質問主意書で政府に見解を求めた。これに対し、政府はそうした事態になれば日本国内の法律が適用され、罰せられるとする答弁書を8日までに決定した。特に機微に触れるような情報を扱う外務省や防衛省などは、警戒を強める。
「専門的な軍事・政治コメントライターを募集」「3千字程度の小論文を書けば5~8万円程度の報酬を支払います」
松原氏は最近、こんな広告がネット上に出ていることを確認したという。
自衛官や公務員の経験がある人がこうした論文などを上司に報告もせずに勝手に書けば当然、内規で罰せられる。
「これはもしかして外国勢力からの諜報工作ではないか。詐欺電話と同様、新たな詐欺の可能性もある。論文執筆をきっかけに、小遣い稼ぎから、いずれは抜け出せなくなる可能性だってあるだろう。万一、そうだとすれば心配だ」
松原氏はこんな問題意識から5月20日、「外国情報機関による勧誘工作」に関し、質問主意書を提出した。
そこではまず、米国の国家防諜安全保障センターが、中国の情報機関がインターネット上の交流サイトでコンサルタント企業などを装い、米政府職員や退職者に勧誘工作を行っていたとして警告を出したことを取り上げた。
そのうえで、特定の秘密を取り扱い、得た知見を外国人が共謀して漏らしたり、漏らすようにそそのかせば、その外国人も特定秘密保護法に基づき、罰則が適用されるのかを政府に問いただした。
◆公職離れた後も法適用対象
これに対し、政府は答弁書で、同法は「日本国外で同罪を犯した外国人にも適用される」と明記した。
さらに、公職から離れた後であっても、以前に情報を扱っていて得た情報が外国人の手に渡る漏えいがあった場合にも、同様に「同法が適用される」との見解を示した。
関係者によるとネット上での分析情報を求めるこうした募集広告が確認されており、「能力に応じ、長期的な協力関係を築きたい」などとも書かれていた。
◆発信元の特定は至難の業
陸上自衛隊出身で自民党の佐藤正久元外務副大臣は、産経新聞の取材に「募集広告は企業などになりすまし、情報を抜き取るフィッシングの可能性もあるが、自衛隊の上官には釣られる人はまず、いない。リスクを冒しやすいのは、それなりのスキルを持つ人よりも若者ではないか」と語った。
そのうえで、「サイバー攻撃と同様に外国勢力も絡んでいるとすれば、発信元などを特定するのは至難の業だ。だが、日本は取り締まる法律も制度も追いついていない。これまでとは違った次元で外国勢力などからの勧誘工作とは断固、対峙しなければならない」と訴えた。
外務省や防衛省では退職後も現役時代に得られた秘密をもらしてはならないと再認識させるため、退職予定の職員に必要な教育などを行っている。